Archive for 20 February 2005

20 February

ユリが揺れる

 最近の科学がらみの新聞記事で最もショックを受けたのは、2月12日の朝日新聞夕刊の記事であった。ユリの語源は、風に吹かれて揺れる姿を「揺り」としたものという。そのユリが強風に曝されているというのである。「ユリ科 大揺れ」というその記事は、最近のDNAを使った研究で、今までユリ科とされていた植物の多くが、実は別系統になるという。ユリ科は少なくとも五つのグループに分解されそうだというのであった。
 花を愛でる立場からいえば、その花が何科に属していようと構わないという考えもあろうが、やはり自分の好きな花がどういう系統に属しているかは気になるところである。
 今までユリ科に属していたアマドコロ属、ジャノヒゲ属、スズラン属、オモト属、クサスギカズラ属(アスパラガス)、ギボウシ属、オリヅルラン属、ネギ属その他が、何とラン科やアヤメ科と同じ系統樹に属するというのだから驚きである。ユリ科ユリ属はその大枝から分かれた別系統で、チューリップ属、ホトトギス属が近縁で、タケシマラン属がそれに次ぎ、チゴユリ属、イヌサフラン属などが同じ枝に連なっている。
 これまで目に見える花の形態を中心にした分類には限界が見えてきたということなのだろう。実はユリを含む単子葉植物の地位自体が危うくなっているという。被子植物の中で発芽時の子葉の数で「単子葉」「双子葉」と分けていくのが分類の基本中の基本であった。ところがDNAで調べると、単子葉と双子葉は系統樹の根元から二つに分かれる形にはならず、モクレンのような原始的とされる双子葉植物の仲間から分かれた小さな枝が単子葉だという。
 これは分類学の大革命である。ユリが揺れるどころの話ではなく、植物全体の分類が見直され、進化像が明らかになり、その多様性の説明ができるようになるだろう。植物図鑑の編集も大変になるだろう。これからはうっかりその花は何科何属という話ができなくなる。しかし面白くなってきたというべきだろう。
 
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タイタンに地球外生物の可能性はあるか

 最近土星の惑星の一つタイタンに、探査機ホイヘンスが着陸して、見事な映像を送ってきた。そこには液体が流れたような地形があって、液体のメタンの雨が降り、海があるのではないかといわれている。そのことから生物がいる、あるいはいた可能性が取りざたされている。
 しかしその期待に水をかけるようであるが、可能性はゼロである。温度の低さもさることながら、液体の水が存在しないからである。生物に水が必要というのは、地球上の生物の常識にとらわれているからで、全く性格の違った生物がいてもおかしくないと思う人がいるかも知れない。
 しかし生物に水が必要ということは、マクロの生物体に水が要るということを超えて、ミクロの生命現象自体が、極めて特殊な液体である「水」なしには起こりえないのである。化学または生化学の専門家以外の人にそれを説明することは簡単ではないが、あえて多少の正確さを犠牲にして説明を試みよう。
 水の中に小さな油滴が二つあるとしよう。この油滴は二つに分かれているよりは一つになろうとする傾向を持っている。なぜなら一つになった方がエネルギー的に安定だからである。その原因が実は水にあるのである。水は固体(氷)ではダイヤモンドによく似た結晶構造を持っている。だから雪の結晶は正六角形である。ただダイヤモンドが炭素と炭素との間の強固な結合で繋がっているのに対して、H2Oの分子式を持つ水の結晶では、水素原子を仲立ちとして酸素原子と酸素原子が繋がり、その結合は弱いもので容易に切れたり繋がったりしている。(この結合を水素結合という)だから温度が0度を超えると液体になり、手をつないだ沢山の子供が動き回って、手を離したり繋がったりを繰り返すような状態になる。それでも不完全な網目構造はなくならない。
 このような液体の水の中に油滴が入ると、油滴の周りの水の構造が変化する。そしてその構造変化によるエネルギーが、油滴が二つの時より一つの時の方が低いのである。
 油滴に代わってもっと小さな「疎水性」の分子を考えても同じことである。だから疎水性の分子は、水の中では一つにまとまろうとする。実はこの性質が生物現象の基礎である。このように水が油滴に働きかける力を「疎水結合」といっている。
 すなわち生物体内での何万という化学反応を触媒している酵素とその反応を受ける物質(分子)との結合、神経伝達における受容体と化学伝達物質との結合、ホルモン受容体とホルモンとの結合で、その第一段階で働くのはこの「疎水結合」という力である。また独立した生活ができる生物には、必ず細胞膜という仕切りが存在する。膜を構成しているのは脂質、すなわち一種の界面活性を持った油である。その脂質は水の中で自動的に閉じた球体を作る。これを作る力も「疎水結合」である。すなわち生物が生物としての形や機能を持ちうるのは「疎水結合」のお陰なのである。
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