Complete text -- "色々な手があるものだ"

28 March

色々な手があるものだ

 ライブドアとフジテレビ・ニッポン放送の争いは、めまぐるしい展開を見せている。この間、聞き慣れない証券用語や経営用語が毎日のメディアに溢れた。その用語を「カッコ」で示しながらことの経過を辿ってみたい。
 フジテレビのニッポン放送株に対する「TOB」中に、突然ライブドアがニッポン放送の株式を「時間外・市場内取引」で短時間に大量に取得して世間を驚かせた。これは実質的な「立会外取引」ではないかという疑問を持たれた。またライブドアが前期売上高の2倍を超える800億円という株取得費用を、「転換価額修正条項付き転換社債型新株予約権付き社債」をリーマン・ブラザーズ証券に引き受けてもらって調達したことは、株主総会で「特別決議」をして三分の二の賛成を必要とする、株式の「有利発行」ではないかという議論もなされた。
 フジテレビはこれに対抗して、ニッポン放送株の買い増しを進め、36%超の株式を取得し、ニッポン放送の株主総会での特別決議を単独で否決する権利を得た。また配当金を一挙に約5倍に増やして株価を上げ、買収を難しくする手を打った。その上、ニッポン放送は株式数を「授権資本」一杯の2.4倍に拡大するために、「新株予約権」を発行し、それを全額フジテレビに引き受けさせるという裏技に出た。これは本来の意味とは違うが「ポイズン・ピル」的な性格を持つ。
 ライブドアは当然のことながら、発行差し止めの仮処分を地裁に申し立てた。その結果は、大方の予想通り、一審、二審ともライブドアの完勝となり、ニッポン放送は新株予約権発行を中止した。すでにニッポン放送株式の過半数を確保したライブドアが、この段階では圧倒的に有利になったかと見られた。余勢を駆って、ライブドアは「レバレッジド・バイアウト(LBO)」という手法で、3000億円もの金を用意して、本丸のフジテレビの買収に動くのではないかという観測が流れた。その思惑でフジテレビの株価は急騰した。
 またフジが逆に「パックマン・ディフェンス」という手を使って、ライブドアの買収に動くのではないかという説が流れる中、一夜明けて、突然「ホワイトナイト(白馬の騎士)」らしい者が現れた。ソフトバンク系列のソフトバンク・インベストメント(SBI)である。ニッポン放送はその保有するフジテレビ株を、5年契約でSBIに議決権をつけたまま貸す。ライブドアにとってのニッポン放送の価値を下げてしまう措置である。これは「焦土作戦」または「クラウン・ジュウエル」と呼ばれる措置である。これによってニッポン放送の大株主であるライブドアの、ニッポン放送を通じてのフジへの影響力がなくなってしまった。この株式貸借取引は、権利付き取引の最終日であったので、差し止めの仮処分を申し立てる余裕もなかった。

 今日そのSBIの北尾吉孝CEOと堀江社長との会談が行われるという話もあったが、理由不明のまま取りやめになった。北尾氏はホリエモン以上に鼻っ柱の強そうな人物で、M&Aのプロ中のプロと言われる。かつて野村證券にいたとき、ソフトバンクの上場を受け持ち、その能力を見込んだ孫正義社長にソフトバンク常務として引き抜かれた。またソフトバンクがメディア王、マードック氏と組んでテレビ朝日の買収に動いたときにも、主要な役割を担ったとされる。その後、北尾氏は孫氏から段々距離をとり、SBIはソフトバンクの連結からもはずれている。今回の措置も孫氏には事後に連絡しただけだという。

 では一体、SBIはこの時期になぜこんな荒技に出たのか。今回の措置は、ライブドアが時間外取引で一挙にニッポン放送の株式を大量に取得した行動以上に、「そんなのありい?」と思わせる裏技である。どちらも法の抜け道をかいくぐったと言っても、その悪質さにおいて勝るのではないか。それなのに北尾氏は、「ライブドアが裁判に訴えても勝てる確率は99.999%ない」と断言する。これまで国の内外で数々のM&Aを手がけてきた氏ならではの確信であろう。

 非上場会社への投資を業務とするSBIにとって、上場株式を買う必然性はほとんどないはずである。今回、借り株とはいえ、上場株であるニッポン放送の株式を持ったからには、何か大きなメリットがあったに違いない。それが何なのか今の段階ではわからない。孫社長には事前に相談しなかったとはいえ、「孫社長とは以心伝心」とも言っているので、やはりメディアへの関心の強い孫正義の意に添った方向だということは間違いないだろう。フジグループにとって、SBIが「白馬の騎士」から「トロイの馬」に変身する可能性は小さくない。
 ある人は、ホリエモンは「踏んではいけない虎の尾を踏んでしまった」という。すなわち、堀江氏はソフトバンク、あるいはヤフーを超えることを公言している。今の段階では、大人と子供の違い以上に差があるが、孫氏にとってライブドアは、今の内に叩いておかなければならない存在になってきたということなのだろうか。

 何れにしても、ホリエモンは進むか退くか大きな決断を迫られる時期に来たようである。それにしても「金がすべて」という彼の人生観や、「支配する」「殺してゆく」といった今回の一連の発言が、恐ろしく高いものについたことは確かである。 
17:37:39 | archivelago | | TrackBacks
Comments

entee wrote:

>トロイの木馬、面白い喩えですね。

「砕氷船」の理論というのは聞いたことはありますか。大きな歴史的事態が起こる時に、必ず、一見どうしてこのひとが!というような人が先陣を切って「おおごと」をやらかすが、必ずその裏にはそれを「漁父の利」のごとく最大限に利用し、あたかもそれを解決するような救世主然とした姿で世間に現れて、実はうまいところを全部盗って行ってしまうというやり方です。例えば、信長を亡き者にして天下を盗ろうとしていた人は幾人もいたが、誰も先陣を切らない。だが、一見小物の明智光秀がそれをやって結局はそれを征伐するという名目で秀吉が天下を取る。これを「砕氷船」というらしいです。つまり、マラソンでいえば、ずっと2番手を走って行き、1番走者にペースメーカーをやらせてずっとその真うしろを付いて行き、最後のラストスパートでぶっちぎって1番になるというのもある種の「砕氷船」です。氷を破って前進するというのは大変きつい役割です。その後から氷のなくなった軌跡をのんびり航行して行き、ぎりぎりのところで1番を行く砕氷船を駆逐して、最後の「極点制覇」の功績だけで名を残すというやり方です。こうした功績の分捕りという戦略というのを「砕氷船」と言うらしく、いろいろなところで起こっているようです。

この論理でいうと、今回のホリエモンは、体の良い「砕氷船」であり、ソフトバンクは、その後を悠々と行って最後の歴史的達成だけを盗る実にスマートな秀吉ということになります。でも、そのソフトバンクは、一回り大きな勢力の重量級の「砕氷船」に過ぎなかったというストーリーもあったりする訳です。どう思われますか?
03/31/05 02:11:14
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