Complete text -- "花便り(123) 4月の雑木林の中で"

17 April

花便り(123) 4月の雑木林の中で

 ソメイヨシノが満開を告げる頃、雑木林の中もひっそりとではあるが春が頭をもたげている。この風情も捨てがたい。4月上旬のある日のスケッチである。

1.カタクリ(ユリ科カタクリ属)とタチツボスミレ(スミレ科スミレ属)
 カタクリについては昨年も書いたのでここでは省く。
 タチツボスミレはこのあたりでは最もよく見るスミレである。我が家の庭にもあちこちで咲いている。芭蕉が「山路きて何やらゆかしすみれ草」と詠んだのはこのスミレだという説がある。
大工道具の墨壺に似た距は昆虫を誘う密壺である。ところが実はスミレの種のほとんどは、虫媒受粉によるのではなく、地際にできる閉鎖花の中で自家受粉したものである。では密壺まで用意してなぜスミレは虫を誘うのか。それは親とは大きく異なる遺伝子型を持つ子孫を残して、環境の激変に保険をかけたものと考えられている。
それだけではない。栄養分を種皮の一部に含ませ、蟻に貯蔵食として巣穴に運ばせる。こうして種子を広く散布する。なかなかどうして、「ゆかしい」だけの植物ではなく、子孫繁栄のためにしたたかな戦略を持った植物である。


2.ヒトリシズカ(センリョウ科センリョウ属)Chloranthus japonicus
 1茎に1〜3cmの穂状花序を1個立てる。その姿から一人静の名が付いた。花弁はなく3本の雄しべの花糸が水平に出る。同属のフタリシズカは、より細い2〜3本の花序を立てる。


3.アマナ(ユリ科アマナ属)Tulipa edulis
花茎の基部に線形の葉が2枚出る。15〜20cmの花茎の先端に1個の花をつける。白色の花弁に暗紫色の筋がある。形がクワイに似た鱗茎は食用になり甘みがあるので甘菜の名がある。


4.サルトリイバラ(ユリ科シオデ属)Smilax china
 落葉蔓性半低木。枝に鉤状の刺があり、サルがひっかかるというのが名前の由来。雌雄別株。写真の花には雄しべが見あたらず、3裂した花柱が見えるので雌花と思われる。雌株には秋7〜9mmの朱赤色の実をつけるのでよく目立つ。


5.ワダソウ(ナデシコ科ワチガイソウ属)Pseudostellaria heterophylla
 長野県和田峠に多いから名付けられたという。茎の上部の2対の葉は大きく、接近してつくので4枚が輪生しているように見える。5弁の花の直径は約2cm、花弁の先はへこむ。雄しべは10個あるが、そのうちの5個の葯が花弁の上に乗ることが多く、花弁に褐色の斑点があるように見えることが多い。


6.ハナイカダ(ミズキ属ハナイカダ属)Helwingia japonica
 雌雄異株。昨年5月ミズキ属の植物の紹介の中でハナイカダの雄花の写真を載せた。今回のは雌花である。きわめて特異な花の付き方をする植物である。葉の主脈の中央付近に花をつけるが、雄花は数個、雌花は普通1個つく。写真はまだ蕾で、3〜4裂する花の様子がまだわからない。雌株は8〜10月頃、紫黒色の核果をつける。


7.イチリンソウ(キンポウゲ科イチリンソウ属)Anemone nikoensis
 イチリンソウは茎葉が3個輪生する点でニリンソウと同じであるが、後者が柄を持たないのに対し、イチリンソウは長い柄があり、小葉は羽状に深裂する。花も直径1.5〜2.5cmのニリンソウより大きく、3〜4cmはある。ただしニリンソウもイチリンソウも花弁はなく、萼片が花弁のように見える。


8.ニリンソウ(キンポウゲ科イチリンソウ属)Anemone flaccida
 花を1茎に2個つけることが多いのでニリンソウの名があるが、花は1個のことも3個のこともある。根生葉は長い柄があり全3裂する。茎葉は3個輪生し柄はない。
 自宅から歩いて5分の所にある立ち入り禁止の市有地に、ニリンソウが群生していて、フェンスの外から見ることができる。ここはウグイスの営巣地でもあり、湧き水があって6月の蛍の時期の夕方だけ一部が市民に開放される。


9.ヤチマタイカリソウ?(メギ科イカリソウ属)Epimedium glandiflorum
 イカリソウが普通紅紫色の花をつけるのに対し、これは白花である。白花を咲かせるものには、ほかにヒゴイカリソウ、トキワイカリソウがあるが、後者は日本海側の多雪地帯に分布するので、これではないだろう。
 イカリソウの花色は紅紫色〜白色とした本もあるので、あるいはイカリソウの白花かもしれない。
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10.クサボケ(バラ科ボケ属)Chaenomeles japonica
 ボケより小型低木なのでクサを冠された。朱赤色の花には両性花と雄花が混在する。ボケの実よりは小さいが梨状果を生じる。果実酒にすることもある。
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13:55:04 | archivelago | | TrackBacks
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