Complete text -- "靖国をこそ争点に"

15 January

靖国をこそ争点に

 安部官房長官が口火を切って、「靖国は秋の自民党総裁選の争点にすべきでない」という意見が、次々に自民党幹部から表明されている。小泉首相も「靖国は心の問題だから、総裁選の争点にしてはいけない」と、安倍氏を擁護するかのような発言をした。小泉側近とされる武部幹事長、中川政調会長も同調している。
 これらの発言は、首相になっても当然靖国参拝をすると明言している安倍氏にとって、争点になれば不利という打算があるようである。しかし山崎拓氏や加藤元幹事長などは、争点になるという考えである。しかしその声は弱々しい。二昔ほど前なら、自民党の中でタカ派に対してはハト派のバネが働いて、極端に偏ることを防いできた。しかし今やあるのは「小泉党」ばかり。逆バネが働く余地がなくなってしまった感がある。

 小泉靖国参拝が中韓両国との首脳交流が途絶えた最大の原因になっているのだから、近隣外交をどう打開していくかについて、各候補は総裁選に当たっての見解を表明するのが当然である。しかし新しい首相が靖国参拝を続けるならば、小泉時代同様、打開はほとんど不可能であろう。そのことを突かれるのが嫌なのに違いない。

 靖国問題は、靖国をどう性格づけるか、過去の歴史認識はどうか、被害者であった中国・韓国国民の心情をどれ程くみ取れるか、日本をどういう国にしたいかなど、日本の政治家の思想的性向を二分するほどの問題である。そのいずれが首相になるかは、今後の日本外交の大きな分岐点にさえなりうる。それを争点にしないというのは、国民にとって極めて分かりにくい話である。
 しかも01年の総裁選で、靖国を争点にしたのは小泉首相その人であった。「8月15日、必ず靖国神社を参拝します」と公約、遺族会にも伝えていた。公明党の幹部も、「自分が『禁じ手』を使っておいて、次の人は駄目というのはいかがなものか」と批判する。

 安倍氏はテレビ番組で「先の戦争やA級戦犯をどうみるか」という質問に、「政治家がいうと、色々問題が起きるのでそれについては言わない方がいい。歴史家に任せるのが賢明だ」と逃げた。これは実にずるい態度である。彼は右派系の雑誌に、活発に意見を発表しているのだから、彼の思想傾向はよく分かっている。いまさら「いわない方がいい」というのは、自分の本音をしゃべったら、それこそ中韓から激しい反発を生じるということが分かっているからだろう。
 本音がそれほど右の政治家が、次の総理候補の筆頭だということを、どれ程国民は理解して彼を支持しているのだろうか。誰が言い出したのか「麻垣庚三」といわれる、他の候補とされる人物が、「いかにも心のねじれた人物」「真面目そうだが頼りない」「自分ではやる気もなさそう」と思われるような、魅力のない人物ばかりだから、「他の人よりよさそう」と思っているのか。あの坊ちゃん面が母性本能を刺激するのか、それとも国民も安倍氏並みに右傾化したのか、容易には理解できないものがある。こんなことならまだ、あの山拓の方がましかと思えてくる。

 安部晋三が次の首相になったら、日本はますますアジアの中で孤立し、ひいては世界的な発言力も低下するばかりだろう。それは彼ら右派が望むところとは全く逆効果である。それだけではなく、憲法改正、教育基本法その他、戦後日本が60年にわたって培ってきた平和主義と民主主義はどこかへ吹き飛んでしまうだろう。これは「いつか来た道」である。
靖国問題をどう捉えるかは、それ程に日本の進路の岐路なのである。これを争点にしないで何を争点にするのか?

              (2006.1.15)

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