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Complete text -- "反中ムードを作り上げて何の得になるのか？"

08 January

反中ムードを作り上げて何の得になるのか？

　この所、ある種の雑誌は反中ムードを盛り上げるのに躍起である。彼らは何のためにこんな国益に反することを敢えてするのか？　その語調は戦前の言論とそっくりである。そして少しでも中国との友好促進発言をした人や新聞を、たちまち国賊・売国奴・中国のポチとののしる。こういう悪口雑言は、それをいう人達の論理の薄弱さを告白しているようなものである。彼らにとって中でも朝日新聞は目の敵のようである。

総力特集　8・15「靖国参拝」で「日本」が決まる　諸君8月号
　　　　　「中国に尻尾をふる朝日とポチ政治家の大罪」など
総力特集「傲慢なり、朝日・中国」　諸君　05年12月号
中国のアジア覇権に飲み込まれる日本　正論　05年12月号
忍び寄る中国覇権に屈するのか　諸君　06年1月号
総力特集「許すな！　中国と朝日」　Will　06年2月号
　　　　　「朝日新聞は『人民日報』東京支局か」など
　総力特集「歴史の嘘」を見破る！　もし中国にああいわれたら――こう言い返せ　諸君　06年2月号

小泉首相の靖国参拝を契機として、日中間の政治的関係は冷え切ったままである。その反作用として中国では反日ムード、日本では反中ムードが高まるという、悪循環が起こりつつある。今年二十歳になる日本の大学生での調査によると、「あなたの嫌いな国はどこですか？」という問いに、1位　中国43.7%、2位　韓国　28.7%　という結果になった(日経06.1.1)。

　上記雑誌等を舞台に、反中を声高に唱える彼らには一体どんな対中戦略があるというのだろう。彼らのいうところに従えば、行き着くところ中国との間で軍拡競争が始まり、最後には戦争にならざるを得ないと思うが、本当に彼らはそこまで考えた上で主張しているのか。確かに中には「(中国の核威嚇に対して)日本の採るべき道は核しかない」という主張も見られる。(例えば諸君1月号、伊藤貫、中国に「核」が世界を制す)　
　しかしそんな道に国民の幸せがあるはずもないことは、まともな感覚の持ち主なら誰でもわかる事である。核戦争でもやろうという人でないなら、一体行き着く先をどう考えているのだろう。中国に対する何のコンプレックスがあるのか知らないが、何の戦略もなく、ただ「中国憎さ」「中国人大嫌い」からだけで、全く無責任な言論を垂れ流す。そして恐ろしいことに、そんな雑誌がこの頃よく売れているという。

　現在及び将来の中国をどう理解するかにつては、様々な見方があり得よう。しかし中国が、彼らが喧伝するように、現在も「暴力国家」であり、将来は「核をひけらかす覇権国家」を目指していると本当に言えるのか？　少なくとも現政権の採っている、国としての外交政策は、ブッシュ米政権よりよほど抑制的である。そして将来、中国が米国と並ぶ覇権国家になる可能性は非常に小さいだろう。
　何故なら中国はもはや深く国際社会、グローバル経済に組み込まれており、他と覇を争って得るものは何もないからである。むしろ現在9%に達する年成長率が、このまま長期間続くことはあり得ない。なぜなら、エネルギーの不足とそれによる価格の高騰、環境の悪化、安全軽視による事故の頻発（工場・炭坑の爆発が、05年11月だけで10件以上）、水不足、社会的格差拡大、共産党幹部の腐敗など、内的・外的な極めて大きい制限因子によって、やがて成長率は下方屈折するだろう。
そう遠くない将来、中国は内政的に相当困難な局面を迎えるだろう。その方をこそ心配しなければならない。世界最大13億もの人口を持つ国が、政治的・社会的に不安定になったら、中国へ進出している企業だけでなく、貿易的に深く結びついている他国への影響は極めて大きいからである。日本も例外ではない。すでに中国圏は、米国を抜いて日本にとって最大の貿易相手国になっている。
そんな国に対して、ありそうもない姿を喧伝し、「中国の覇権に屈するな」などと叫ぶ態度は、まるで風車に怯えるドンキホーテである。現在は共産党独裁だから嫌いなのか、また警戒しなければならないのか？　あるいは中国人はそもそも信用出来ないと考えるのか？　しかし中国がいつまでも共産党一党独裁体制を持ち続けると考える必要もない。世代交代毎に大きく変わって行くだろう。毛沢東時代と鄧小平以後の中国は、同じ共産党一党独裁といいながらも、全く別の国家のように変わってしまった。これくらいの変化はこえからも十分予想されることである。
　
1月5日、小泉首相は念頭に記者会見で、「一国の首相が、一政治家として一国民として戦没者に感謝と敬意を捧げる。精神の自由、心の問題について、政治が関与することを嫌う言論人知識人が批判することは理解できない。まして外国政府が介入して、外交問題にしようとする姿勢も理解できない」と述べた。
あきれるような理解力、曲解力、独断力といおうか。一々反論するのも馬鹿らしくなる。この小泉流が、二つの隣国との関係を決定的に傷つけた。しかもこの弊害は小泉首相が言うような一時的なものでなく、日本と中韓の国民の間に、長く心のしこりとして残って行くに違いない。このことだけでも小泉首相は万死に値する。

このように近隣2カ国と、まともな外交関係を築けない日本は、ASEANの中でも困った存在だと見られている(マレーシアのアブドラ首相、フィリピンのアロヨ大統領、シンガポールのシェンロン首相などの発言)。それだけでなく、靖国参拝という愚行によって日中・日韓の関係を悪化させる日本は、同盟国アメリカにおいてさえ批判の対象になっている。NYタイムズ、フィナンシャルタイムズなどのジャーナリズムだけでなく、小泉首相が唯一頼りにするブッシュ政権内でさえ、批判的な空気が支配的である。
6カ国協議の米国代表であるヒル国務次官補(東アジア・太平洋担当)は、記者団とのインタビューの中で、靖国参拝への米政権内の反応を聞かれ、「皆が意見を持っている。私にも意見はある」と、批判的な見解を滲ませた。また「米国は日本と中韓が良好な関係にあることを強く望む。日中が問題を抱えることは米国にとって何の国益にもならない」と、改善を促した(日経、06.1.6)。またカーティス・コロンビア大学教授をはじめ、多くの識者も全く同じ意見である(例えば報道2001、06.1.8)。

このように、アジアで孤立して行く日本が、その他の世界中の国から尊敬され重視されるはずがない。上記雑誌などで日中対立をあおる人々は、中国に対して強硬・毅然とした態度を取ることによって、「国威発揚」が出来ると考えているのかも知れないが、結果は全く逆の効果を生むだけである。実に愚かというしかない。

日本の政治家の中からも、戦争を知る人がほとんどいなくなってしまった。戦争というものがどんなに悲惨なものであるか、実感として分かる人がいなくなった。亀岡高夫元建設相、田中六助元自民党幹事長、梶山静六氏、野中広務元幹事長、後藤田正治元副総理、山本昌弘元社会党副委員長など、軍隊体験を通じた反戦意識が強かった人達がほとんど亡くなるか引退してしまった。
「次期首相にとっても靖国参拝は責務だ」（正論　12月号）とさえいう安部晋三官房長官が、次期首相の最有力候補というのでは、日本の将来はどうなるのか？　彼は上記雑誌群でも、活発に発言を続けている。朝日新聞の若宮啓文論説主幹と対談した読売新聞の渡辺恒雄主筆は、「靖国公式参拝論者を次の首相にしたら、もうアジア外交は永久に駄目になっちゃうんじゃないか」と述べた。自民党の広報紙とまでいわれる読売新聞の主筆の言である。これも戦争体験から来る信念に根ざしている。

「(かつて戦火を交えた欧州が)大きな歴史の重荷を抱えていたが、極めて困難な問題を過去のものとし、前進し、統合した」(ヒルズ国務次官補)。「ドイツは一部領土をあきらめてまで歴史を徹底的に清算した。戦争で苦痛を与えた人達の追悼施設など一切作らなかった。・・・和解や相互理解が会ってこそ、不信が解消できる」(盧武鉉韓国大統領)。
こういう見方は世界的に広く行われている。あの大戦の総括を全くやってこなかった日本人は、健忘症のようにまたぞろ破滅の道を選ぼうとしているのか？　今、対中強硬論を唱えたり、靖国参拝を主張している人は、多くが戦後生まれで、戦争を紙の上だけで学んで、あの時代の実感を持てない人である。実に危なっかしい。

南京大虐殺がなかったといまだに言い張る人達がいる。中国が誇大な数字を挙げていることも確かであろうが、数の問題ではない。あの頃の日本軍の体質がどうであったかは、あの時代の空気を知っている人にしか分かるまい。軍の中では、日常的に暴力がふるわれていた。軍隊だけでない。学校においてさえ、先生や先輩の暴力は日常的だった。そこには人権のかけらもなかった。そんな体質の軍隊や個人が、敵地においてどんな行動を取るか、推して知るべしである。絶対にあのような時代に戻してはならないのである。
日本政府が公式には村山談話のような声明を何回発表しても、首相や自民党議員の多く、民主党議員の一部が、A級戦犯を祭り、あの戦争を肯定する靖国神社をぞろぞろと参拝したのでは、信頼されるはずがないではないか。そして文芸春秋社のような歴史のある有力出版社が、「諸君」のような右傾化した雑誌を売りまくる。その雑誌に次の首相候補の最右翼が、頻繁に勇ましい記事を書き、その人物が国民に圧倒的に支持されているというのでは、日本の世論があの通りだと思われても仕方がないだろう。今後日本のアジア外交は成り立たず、益々孤立の道を辿るだろう。

経済的には日中は相互補完、相互依存の関係を益々深めている。しかし今のような政冷関係が続けば、中国市場において日本は極めて不利な立場に立たされて行くに違いない。たとえ政治体制が違っており、民主主義国から見れば、あるいは人権侵害があり、あるいは「臭いものには蓋」の隠蔽体質があり、あるいは少数民族への圧迫があったとしても、それはそれなりのつきあい方があるはずである。あれら雑誌のとる路線では、相互にとって失うばかりで、得るものは何もない。

　　　　　　　　　　　　　　（０６．１．８）

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