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05 November

二つの暴動に通底するもの

 10月27日夜、警察に追われていると思って変電施設に逃げ込んだアフリカ系2少年が、感電死した事故をきっかけにして始まったパリ郊外の若者達による暴動は、9日目を迎えた4日夜も収まる気配を見せず、地方にも波及する騒ぎになっている。一連の暴動で破壊された車は1260台、逮捕者は230人に達した。
 事件が発生した地域は、移民や移民の子孫を含め、失業者や低所得者が多い地区といわれる。フランスでこれほどの暴動が発生する土壌があったということには驚かされた。情報通には予想できたのかも知れないが、新聞・テレビでの僅かな情報しかない我々には意外であった。

 もう一つ、アルゼンチンのマルデルプラタで開かれている米州サミットに対するデモも、400km離れた首都ブエノスアイレスの銀行や商店が襲われる暴動に発展している。こちらの方は、米国主導の経済統合への反感だけでなく、イラク戦争を始めたブッシュ大統領への抗議的色彩も強い。元サッカー・アルゼンチン代表のマラドーナ氏も、「Stop Bush」と書かれたTシャツを着て先頭に立っている。3日夜には「反ブッシュ」を掲げる特別列車が、160人の文化人や運動家を乗せてブエノスアイレスを出発した。1980年のノーベル平和賞を受賞したアドルフォ・エスキベル氏らも、「ブッシュこそテロリスト」などと気勢を上げた。
 アルゼンチンは01年債務不履行に陥り、IMF主導下経済再建に取り組んでいるが、貧富の格差は拡大し、預金封鎖などで中流層も痛手を被った。米国主導のグローバル化、米州自由貿易地域FTAA構想と同時並行して進んだ貧困化のために、米国やブッシュ大統領への反感が大きい。従ってこちらのデモや暴動は十分予想できた。
 首脳会議の会場近くのサッカースタジアムで開かれた集会には数万人が参加し、反米姿勢を強めるチャベス・ベネズエラ大統領は、「ここがFTAAの墓場になる」と演説した。このような情勢下では、FTAAについての本格的な協議は行われない見通しである。01年の同会議で合意されていた年内発効は、ほぼ絶望的である。

 この二つの暴動は地理的にも離れ、全く違った条件下で起こったものである。フランスの場合には移民やそれに伴う宗教がからんでいて、アルゼンチンとは色彩をやや異にする。しかしそれに通底するのは「貧困」であり、世界的に進行する「不平等化」である。こういうデモ行為は、近年開かれるすべての国際会議、サミットで必ず見られる。近く韓国釜山で行われる予定のAPEC首脳会議でも、大規模なデモが懸念され、韓国政府は厳戒態勢を取っている。
 このような傾向は決してよそ事ではない。このことはグローバル化の名の下での、まるで不可避的潮流であるかのごとき論議に警告を発しているものと思われる。これまで筆者が繰り返し述べてきた日本での不平等の拡大は、市場主義による「効率」と、その制御による「公平」「平等」との折り合いをどこでつけるかという大きな問題を投げかけている。効率に偏りすぎると、社会の不安定性を増す。「改革を止めるな」というスローガンで進められる政策へも、監視の目は欠かせない。

 フランスではポスト・シラクを争うドビルパン首相とサルコジ内相が、対照的な動きを見せている。ドビルパン首相は、暴動が起こった地域の住民を首相官邸に呼んで対話を尊重する柔軟路線をとっている。それに対して、直接の治安責任者サルコジ内相は、暴動参加者を「社会の屑」と呼び、「寛容ゼロ」で臨むとテレビで宣言した。この発言がさらに暴動の火に油を注いだ。
 このような事態に臨んでの対症療法の効果は限られる。これは「対テロ戦争」についても同じ事が言える。即効性はなくても地道な「不平等解消」への政策的努力こそが、長い目で見ての社会の安定性を増すことにつながる。
20:45:30 | archivelago | | TrackBacks
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