Archive for March 2006

31 March

検察は控訴を断念して改めて真相に迫れ

―日歯連のヤミ献金問題で「政治検察」の汚名を濯ぐとき―

 日歯連のヤミ献金問題に絡む3月30日の村岡裁判で、東京地裁は被告に無罪を言い渡すと同時に、検察に対する強い不満をにじませた。これは全く国民の見方に一致する。検察審査会も橋本元総理不起訴は不当としたのに、検察はそれをはねつけた。まさに時の政権に配慮した「政治検察」そのものである。

 それにしてもかつての同僚に無実の罪をおっかぶせたまま、のうのうと暮らしている橋本元総理は、どんな心境なのだろうか。判決は「橋本は政治資金規正法上の平成研の代表者であることに照らし、同法違反(不記載)の罪に問われる可能性は相当高い」とまで踏み込んだ。
1億円受け取りの席にいたとされる青木参院議員会長と野中元幹事長の、しれっとした記憶喪失にもあきれるほかはない。一体彼らは1億円を何に使ったのか。1億円もらっても覚えていないような政治家に、いくら献金しても無駄というものである。

 この問題には単に旧橋本派への闇献金にとどまらず、日歯連側が自民党の政治資金団体「国民政治協会」(国政協)をう回して国会議員に献金したとされる疑惑がある。日歯連は厚生労働関係を中心とした自民党議員にカネを配る一方、国政協に毎年4〜6億円に上る巨額の資金を寄付する方法を巧みに組み合わせていた。

 うち、国政協を通じたいわゆる“う回献金”に関しては、政治資金規正法違反容疑で有罪判決を受けた日歯連元幹部が、当時厚生労働政務官だった自民党衆院議員ら五人に計四千万円を献金したと供述。特捜部が捜査を進めたが、「議員への資金配分に国政協側の意思が働いている上、献金の趣旨があいまい」とされ、立件は見送られた。

 ただ国政協については、ゼネコン汚職やKSD事件など過去の大型汚職事件でも捜査の壁として浮上。そのたびに国政協が献金の“洗浄装置”になっているのでないかとの指摘が聞かれた。国政協を通じて特定議員に渡るカネは、「自民党の経理責任者が“ひもつき” 献金と認めない限り、贈収賄などの立件は難しい」(捜査関係者)のが実情である。
 判決は国政協の「不透明な献金処理」にも言及している。しかし06年10月に成立した改正規正法でも、迂回献金の禁止は見送られた。自民党にとってこの迂回献金ルートは欠かせない資金集め方法になっていると見える。政治資金の不透明性を正そうという動きが、政治の中から全く出てこないのも、救いがたさを感じさせる。小泉改革には政治資金改革は含まれないらしい。
 それにしても最近の検察には不信感を持たないわけに行かない。政治家の巨悪は見逃すが、反政府的活動家と見なされると、ビラ配りという微罪でも拘留・起訴にもってゆく。巨悪にこそ「秋霜烈日」であって欲しいもの。今度の判決を機会に、無駄な控訴は取りやめて、巨悪・真犯人の逮捕・起訴に注力してもらいたい。

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24 March

まるでヤクザの立ち退き料8700億円

―国会議論もなく米戦略に組み敷かれ―

 窒素ラヂカル子は、一昨年の秋から「米世界戦略に組み込まれる日本 ―米提案を拒否して独立を守れ―」「国会形骸化の向こうに見えるもの ―国民はどこへ連れて行かれるのか―」および「国民の知らない間に進む日米軍事一体化 ―テレビが若貴スキャンダルを垂れ流す間に―」で、米軍再編に絡む問題での、小泉内閣の徹底した国会回避の姿勢を批判してきた。これから少なくとも数十年は日本を制約するであろう米国の戦略再編への組み込みについて、ただの一回も国会での議論をしなかった。当時の町村外相も、「まだ話し合いの途中だから」と逃げ回った。
 そして昨年10月29日、外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(いわゆる2プラス2)で、在日米軍再編に関する「中間報告」が発表された。これはさらに今月中に最終報告として決着することになっている。しかしその中に盛り込まれた計画は、関係する地元に相談なしに決められたものなので、公表後ほとんどの地元自治体は反対の声を上げている。政府は誠心誠意説明して地元の了解を取り付けたいと言うだけで、成算があるわけではない。

 中でもほとんどの国民を驚かせたのは、沖縄に駐留する海兵隊15000人のうち、8000人をグアムに移す費用は100億ドル(1兆1600億円)で、その75%(8700億円)を日本が負担せよという要求である。そもそも海兵隊は日本の防衛力として予定されておらず、いわば日本は駐留場所を提供しているだけである。極東条項を形骸化させて、沖縄基地から海兵隊をアフガンやイラクへ派遣する。それを米国の再編策としてグアムに移転するのであって、日本としては「そちらの勝手でしょう」といえる話である。
 それを沖縄の基地縮小の強い要求があることを奇禍として、日本の都合で移るのだから移転費用を負担せよと言うのである。しかもあまりにも法外な金額である。これまでも「思いやり予算」という世界的にも例のない駐留経費、年間2300億円を負担してきた。日本は要求すれば金を出すと見くびられる原因にもなっている。本当に馬鹿にするのもいい加減にしてくれといいたい。
 沖縄返還時に、当然米国が負担すべき経費を、日本が肩代わりした密約が当時の外交当局者によって明らかにされた。政府は今でもそんな密約はなかったと言い張っている。こんな嘘を政府がつき続けるのは政府の信頼性を著しく傷つける。今回もそういう密約を結ぶ気か。
 ローレス国防副次官は朝日新聞との会見で「グアムには、海兵隊だけでなく、空軍、海軍も合わせた主要な拠点を作ろうとしている」と述べている。すなわち米国の戦略上の必要から海兵隊の移転も考えているということだ。また「関連するインフラ整備を合わせて約100億ドルと推計している。米国はこれを大きく上回る全体の再展開費用を負担するのだから、日本に海兵隊移転に必要な経費の約75%の負担を求めるのは、きわめて妥当なことだ」とも述べた。
 米国の主張の根底には、日本の防衛費がGDPの1%しかなく、米国3%以上、韓国2.5%、中国4%以上、シンガポール5%以上と比較して少なすぎるという考えがある。しかし防衛費にその国がどれだけ支出するかは、その国の国民が決めることであって、他国から多いの少ないのと文句をつけられる話ではない。支出が多ければ他国にとって脅威にもなろうが、少ないのは日本が専守防衛という、世界に誇るべき方針を採ってきたからに他ならない。

思いやり予算はまだ日本国内の基地に関するものであったが、今回は米領土であるグアムにつくる新たな基地施設などに使われるものである。外国に作る施設に日本の税金を使うなどということは、法律も想定していないことである。政府は新しい法律を作ることを考えているそうであるが、貸付金として出す案もあると報じられた。しかしそれには何年か後には債権放棄でうやむやという危険もある。

 いまや米国の世界的な軍事戦略に諸手を挙げて賛成という国はほとんどないだろう。突出した軍事支出が、産軍政のコングロマリットの利益のためだということを知らぬ人はいない。アイゼンハウアー元大統領が懸念し警告した通りになってしまった。国連の了解もなしに始めたイラク戦争は、事実上の内戦状態に突入し、収拾のめども立たない。今の小泉内閣の無戦略では、そんな誤った米戦略に巻き込まれて日本も抜き差しならぬ立場に陥るだけだろう。戦略がないから国会での議論にしたくないのである。
 今回の交渉経過を見る限り、日本は米国の属国としか思えない。占領時代の統治・被統治の関係がいまだに続いていると見られる。この関係は自民党政治が続く限り変わらないだろう。もっともいまの前原民主党でも変化の期待は持てない。対米関係、対アジア関係を根本的に見直し、大きな戦略の下で外交を展開するスケールの大きい政治家は出ないものか。

              (2006.3.24)

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19 March

“誰が何の目的で”を追求せよ

―偽メール事件の深層は?―
 
民主党がつかまされた偽メールは、政府・与党がいわゆる4点セットでの追及をかわすのに絶大な威力を発揮した。民主党は幹部の問題解決のまずさもあって未だに立ち直れず、野党第一党の存在はなきに等しくなっている。
これほどに野党つぶしに威力を発揮した偽メールなのに、このメールを「誰が、何の目的で」民主党につかませたのか、政界でもメディアでも表だって追求しようという動きが感じられない。一体何故なのか。矛先は民主党と永田議員に向けられるだけである。しかしある政治的目的を持ってこのメールが利用されたのであれば、その罪は永田議員の比ではない。
民主党はいわゆる仲介者を公表し、その人に金を払ったかどうかも明らかにすべきである。その仲介者としてすでに実名がネット上では飛び交い、ガセネタ作りとして札付きで、週刊誌などにも同じものを持ち回ったという話もあって、金目的であるなら事は単純である。しかし本当にそうか。その後ろで糸を引いていた、あるいは金で動かした人や組織はなかったか?
小泉首相は永田議員の爆弾質問の後、早い時期に「ガセネタ」と断定した。これは裏の事情に通じていたことを意味しないか?

全く次元の違う話であるが、本ブログの、現在の政府・与党を批判する文章をねらい打ちするように、嫌がらせと思われる英文のコメントが、きわめて短時間のうちに数十通も集中する。文章はきわめて短く、ほめ殺し的な文章もある。Good job ! だの、Excellent workなどの言葉がある。これは個人の作業によるのではなく、金を使った組織的ないやがらせと見られる。
これは本ブログに限ったことではないらしい。狙われる文章は、決まって政治的で、現状批判をした文章のようである。一体誰がこれをやらせているのか。何の根拠もないので、決めつける訳にはいかないが、推理小説と同じように、これによって誰が利益を受けるかを考えれば、「犯人」を推測して誤る事が少ないだろう。

なお今の自民党は、米国に学んで、政権批判情報に目を光らせている。その中心人物が去年の選挙でも絶大な功績のあったとされる、世耕弘成議員である。「コミュニケーション戦略チーム」を率いる彼は、NTTの企業広報を担当していた広報のプロである。(彼らの考えに警告を発した文章を、一昨年の1月に、『山本一太・世耕弘成両議員の「闘論」を聴いて ―政府の情報操作はまっぴらだ―』というタイトルで「窒素ラヂカルの正論・暴論」に書いた。自民党は、政府・与党のためにならないと思われる情報は、どんな小さなものにも目を光らせて対策をとっていると見られる。選挙前にはブロガーを集めて懇談会も開いた。

 一見何の関連もないと思われる事象も、ある仮説によって結びつければ、その深層があぶり出されてくることもあるので素材として提供してみた。
                (06.3.19)

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13 March

「ミメティスム」の克服

 2月20日の朝日新聞夕刊で、「ミメティスム」という言葉を初めて知った。フランスの政治哲学者A. ブロサ・パリ第8大学教授の提唱する概念だという。Mimétismeという言葉は元来生物学の「擬態」という意味らしい。ブロサ氏によれば「自分のしたことを条件反射的に相対化する論理」だという。日本語では「仕返し主義」「模倣の論理」などの訳語が候補に挙がっている。(しかし余りよい訳語とは思えない)
 
 それは日本の政治家や保守的な言論人からしばしば聞かされる言葉、例えば「先の戦争は日本だけが悪いのではない。仕方なく始めさせられたのだ」「アジアの植民地支配を先に始めたのは日本ではないのに、どうしていつも日本だけが悪者にされるのだ」「確かに殴ったかもしれないが、僕らがやって以上に殴り返されたじゃないか」「日本は侵略したことがあるかもしれないが、それによって植民地の独立に大いに貢献した」といった論理である。
 そして彼らは、先の戦争を反省することを、自虐史観に囚われていると非難する。しかし過去の悪いことを反省し、二度とそういう過ちを繰り返すまいと決意することの方が、彼らのミメティスム的論理より遙かに勇気が要り、遙かに建設的である。
 
ブロサ氏は、過去を巡って日本とドイツの違いが最も顕著に表れるのは、ミメティスムに囚われているかどうかだという。西ドイツでは60年代に若者達が「父親達が何をしたのか」を問いつめることなどを通じて、ミメティスムから脱却し、政治指導者も国民の圧倒的多数も、ドイツ人の名において第三帝国の下でなされた戦争犯罪の責任を引き受けるようになったというのがブロサ氏の見方である。

 初来日のブロサ氏にとって日本での驚きは幾つもあった。北方領土、竹島、尖閣諸島などの領土紛争がいまだに尾を引いていること、小泉首相の靖国参拝、そしてその靖国参拝に対して若い世代の政治家から批判の声が上がらないことなど。
 ブロサ氏はいう。「西欧では二度の大戦での壊滅的な災禍が、ミメティスムでは何も解決しないという暗黙の了解を人々の間に生み出した」「仕返ししても何も解決しない。相手の立場を理解しようとする普通の人たちの開かれた態度が、西欧に暗黙の了解を成立させた」「二度経験しないとわからないものでしょうか。日本は、もう一度の経験が必要なのですか。空恐ろしいことです」
 
これらの指摘は至極当然で、窒素ラヂカル子がかねて憤りを込めて主張していることばかりである。あの戦争の開始や敗北を総括することもなく、極東裁判の不当性を主張するばかりで、A級戦犯を祀った靖国神社を首相が参拝しても、約半数の国民がそれを支持する日本。その上、近隣諸国に対して過去の失敗への反省を何回も公式には表明しながら、その反省や謝罪を疑わせるような言動を繰り返す政治家。その言動への批判を繰り返す外国に対して、「毅然として反論する」ことに小さなナショナリズムを満足させるだけの国民。しかもそのナショナリズムを強固にするために、「国を愛する心」を盛り込んだ教育基本法の改悪に乗り出そうとする政治。実に愚かというほかない。ブロサ氏がいうように、日本はもう一度同じ過ちを繰り返すつもりなのか。

最近読んだ文章の中で最も心に残ったものは、辺見庸氏の「小泉時代とは」という寄稿である(朝日新聞,06.3.8)。「政治のショー化、有権者のサポーター化といった現象が、イメージ偏重型である小泉首相の登場を引き金に、この国でも顕在化した」とする。
「一犬虚に吠ゆれば万犬実を伝う」を地で行ったのが、小泉政治の5年間であったという。一犬である小泉首相がでたらめを語ると、万犬すなわち群衆はそれを真実として広めてしまう。その群衆の危うい変わり身と、それに拍車をかけた「一犬」と「万犬」をつなぐメディア、特にテレビメディアにひやりとしたものを感じるというのである。ショー化した政治は「ファッシズムよりましというだけで、民主主義ではない」と断じたレジス・ドブレの言葉に、氏は一つの問いを継ぎ足す。「日本は本当にファッシズムではないと断言できるのか」と。
先の選挙における小泉首相の演説はヒトラーそっくりであった。複雑で多岐にわたる政治課題を、単純化し、黒か白かで選択を迫る。そしてそれを繰り返し繰り返し、熱情をもって、断固とした口調で、騙しのテクニックを駆使し、すり替え論理を使って、断定的に訴える。嘘も百回つき続ければ本当と思われるという、まさにヒトラー流である。

こういう劇場政治が進行する中で、最近の日本国民に、ミメティスムがかなり広く受け入れられる雰囲気が出てきているように思われる。それが小泉首相の靖国参拝とそれへの中韓両国の反発が、その傾向に拍車をかけたのは間違いない。

9月に小泉時代は終わるらしい。しかし小泉より右派の安部晋三官房長官が首相として登場するのでは、近隣外交は停滞したままであろう。町村外相時代にも窒素ラヂカル子は、「劣化する政治家の外交センス」という文章で批判したが、現在の麻生外相はそれに輪をかけて外交音痴である。「中国は脅威」とか、「台湾は国」とか公言し、無用の摩擦を積極的に引き起こす。外国にけんかを売るのなら外務大臣なんか要らない。

自民党総裁が首相になることは間違いない現在、その投票権を持つ自民党員には、ミメティスムを克服できる人物を選ぶ良識を期待したいのだが。
                  (06.3.13)

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04 March

地球環境考慮の経済政策はいつになったら?

 今政府・与党の中で竹中総務相・中川政調会長を中心とする「上げ潮派」と、与謝野経済財政担当相・谷垣財務相、それに日銀を加えた「堅実派」との間で、財政再建・金融政策をめぐる対立が続いている。しかしその対立は、せいぜい名目成長率を4%にするか、もう少し低めに見積もるか位の対立でしかない。いずれも「成長」を絶対的与件とする立場である。
 一方、世界的に「持続可能な経済」を指向すべしという、いわば地球環境の危機的現状に警鐘を鳴らす有力な勢力がある。地球環境が本当に危機的であるなら、当然現実の経済政策はそのことをふまえた上で作成されなければならないのに、この両勢力の交点は全くないように見える。
 今経済財政諮問会議で現実の経済政策を論じている人たちの頭には、地球環境の問題などはかけらほども入ってきているように思えない。本来なら環境省というものがあるのだから、この会議の席に環境相も出席して、その議論に大きな方向を与えなければならないのに、環境省はせいぜい他省庁や産業界が反対しないような線で、当たり障りのない政策を出すにすぎない。

 中川政調会長は、1月27日、スイスのダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)の関連行事として開いた日本主催の夕食会で挨拶し、今夏をめどに名目成長率4〜5%を目標とする自民党の成長戦略をまとめる方針を明らかにした。これを「日本版ライジングタイド(上げ潮)政策」と命名した。
 マスコミも例えば日経新聞は、「大国に責任ある行動迫る地球異変」という社説(05年10月19日)を出しながら、その舌の根も乾かないうちに、「経済が低迷した後、新たな成長を目指そうとしなかった先進国はない」「まして日本は人口減少時代が待ち受けている。(中略)よほど思い切った成長戦略を打ち出さない限り、縮み経済のスパイラルに落ちる危険がある」(06年1月16日、岡田直明・論説主幹)と、成長指向一本槍である。

 しかし目を地球温暖化というただ一点に絞ってみても、危機は明日のことではなく、今足下で着々と進行している現象である。それを幾つか並べてみよう。

1. 気象庁05.10発表の異常気象レポート
観測データが残る1898年以降の日本の平均気温は、1.06度高くなった。気温の上昇は大都市ほど顕著である。この100年で東京3.0度、名古屋2.7度、福岡2.6度上昇している。CO2排出量が今後も増え続けると、100年後には日本の平均気温は2〜3度上昇する。東京は鹿児島並みの気温となる。
海面水位もこの100年で12cm上昇した。1990年以降では、海面水位は1年当たり約3.8mmの割合で上昇しており、過去100年の上昇率より大きくなっている。2月28日のNHKの報道によれば、南太平洋に浮かぶ島国ツバルは、大潮のこの時期、海水に洗われる土地が増え、スポンジ状の珊瑚礁から成り立っている土地だから、あちこちに海水が噴き出す穴が出現している。海面上昇はこれらの島嶼国にとっては文字通り国の存亡の問題である。オーストラリアやニュージーランドへの国を挙げての移住を真剣に検討している。
植物の開花は早まり、桜の開花は全国平均4.2日早まった。一方カエデの紅葉は、15,6日、イチョウの黄葉は10.8日遅くなった。
2004年は観測史上2番目に高い年平均気温を記録し、東京大手町で真夏日が40日連続、7月20日、39.5度の過去最高気温となるなど、各地で高温記録が更新された。このほか異常多雨、台風上陸10個の新記録も作られた。
気温上昇で懸念されているもう一つの問題は、これまで熱帯病と考えられていたマラリアなどの疾病が、温帯地方にまで広がることである。

2.航空宇宙局(NASA)その他の観測
陸上温度、衛星から測定した海表面温度、船上測定の結果から、NASAおよび世界気象機関(WMO)は、2005年はこれまでで最も暖かい年であったと発表した。北極海の気温が過去50年で4度上昇した。その結果05年夏の北極の氷冠が、過去の平均記録より20%も小さくなった。
 世界170人の科学者・専門家の報告書によると、世界の平均気温が今より2度以上も上昇すると、グリーンランドの氷床が融け始め、北大西洋海流の減速・停止、アマゾンのサバンナ化など、「激烈な気候変動」が起きるという予測がなされている。今の世界の経済成長率では、最短で2026年(僅か20年後ですぞ!)には2度を突破するとの予測もなされている。
05年相次いでアメリカを襲った強烈なハリケーンは、メキシコ湾の水温上昇がその発達を促したという説が有力である。

3. 中国科学院青海チベット高原研究所等によるチベット氷河の解凍観測
平均標高が4000mを超える世界の屋根チベット高原は、長江、黄河、怒江、メコン川、インダス川、ガンジス川などの源流である。同高原と周辺の氷河は46298平方キロに及ぶが、この40年間で平均7%縮小した。今後百年でチベット高原の氷河の50~60%が減る可能性がある。
ここには1000を超える面積1平方キロ以上の氷河湖がある。氷河の解凍のため、氷河湖の水位が上がって牧草地が水没し、村ごと3回も引っ越しした例がある。
青海省の黄河源流域の氷河が、00年までの34年間で17%縮小した。その縮小速度は過去300年の10倍である。氷河後退の原因は地球温暖化による季節風の変化によって説明されている。すなわち海面温度の上昇でインド洋などから大陸に吹き付ける湿気を含んだ夏の季節風の期間が長引いて降雨量が増える一方、大陸から海洋に吹き出す冬の季節風が弱まって降雪量が減った。黄河の流量が減り、源流域の地下水の水位が下がって水不足の可能性が高くなっている。
雲南省とチベット自治区との境界に聳える「聖山」梅里雪山から伸びるミヨン氷河も、年に20~30m後退している。この氷河は59~71年の間には800mも前進していた。この付近の平均気温は過去30年で1度上昇し、積雪量が減少して氷河の後退を加速させている。

4. 「Science」の論文
   南極大陸西側のアムンゼン海に流れ込む6つの氷河がこの15年間で流れの速度を上げており、しかもそのペースが最近になってさらに速まっているとしている。その中でも最も速いパインアイランド氷河は、1日約5.5メートルのペースで流れており、地球上で最も動きが速い氷河のうちに数えられるまでになっている。この速度は、1970年代と比べると25%も上がっている。
アイスレーダーを搭載した調査用航空機で調べた結果、アムンゼン海に流れ込む6つの氷河は、これまで考えられていたよりも平均で約390メートル厚く、海に流れ込んでいる氷の量も非常に多かったことが判明した。リグノット博士によると、6つの氷河が完全に海に落ちて溶けた場合、地球全体の海面が90センチ以上上昇するという。
   ちなみにもし1m海面が上昇すれば、日本の人口の3%、410万人が住む家を失う。

5.「Nature」誌の2004年1月8日号
   温室効果ガスの排出量を大幅に削減しなければ、地球上に存在する全動植物種の4分の1が2050年までに絶滅する。

 このほか地球温暖化を示すデータは枚挙にいとまがない。そのどれも今すぐに対策がとられなければ手遅れになることを示している。しかし温暖化を防ぐ政策は遅々として進んでいない。1997年に採択され、05年2月16日に発効した京都議定書には、温暖化ガス排出量世界一のアメリカ、2位の中国、5位のインドが含まれていない。
特に世界排出量の4分の1を占めるアメリカが、経済活動への悪影響を理由に京都議定書から離脱したのは、全く利己的な行動であって、大いに非難されるべきである。アメリカがこういう態度をとり続ける限り、中国、インドなどの途上国扱いの国々が、協力するはずがない。そのアメリカが猛烈ハリケーンで大きな被害を出したのは、まさに「身から出た錆」であった。「利己」のつもりが「損己」になっている。
さすがにアメリカでも、ニューヨーク州など北東部7州、カリフォルニアなど西部3州などは、独自のCO2削減策や新規制を打ち出している。この動きには、来るべき大統領選への野心という不純な動機も含むようであるが、州レベルから中央政府に圧力をかけ、少しでも温暖化防止に役立つのであれば歓迎すべきことであろう。またブッシュ政権は、全米科学アカデミーからもたしなめられ、COP11(第11回国連気象変動枠組み条約締結国会議)も、京都議定書反対の取り消しを要求した。

振り返って我が日本の実情はとなると、こちらも決して威張れる話ではない。京都議定書で日本は、2008〜2012年の間の平均で、温暖化ガス排出量を90年の水準から6%減らす約束をしている。ところが減らすどころか、03年で8%増えている。とくに民生部門、運輸部門などの増加が大きい。この6年以内に14%減らすのは至難の業である。政府は約1億トン分の削減に相当する排出権を購入する腹づもりである。
しかし排出権の価格は、今後数年間で2〜4倍に高騰すると言われている。05年の水準のままなら、1億トンを買うのに約700億円かかる計算だが、予想される価格高騰があれば、2000億円以上かかることになる。早くから排出権の手当をしてきたヨーロッパ諸国は、すでに安く購入したと言われている。
日本で唯一排出量を僅かながらマイナスにできたのは産業部門である。その努力の甲斐あって、日本のエネルギー使用効率は世界主要国のトップである。GDP1単位当たりのエネルギー消費量は、ドイツが日本の1.4倍、米国が2.8倍、中国が9倍、ロシアに至っては18倍である。これら効率の悪い国々、特に中国は、日本が技術移転をして排出権を獲得する絶好の場である。こういう経済交流、環境協力こそ、互いにWin –Winの関係を結べる。それも小泉の靖国参拝と言う愚行によって、話し合いさえできない状態が続いている。

ローマクラブによる「成長の限界」が出されてからすでに40年、この後にも人類は多大の資源を食いつぶし、地球環境を汚染し続けてきた。そしてその行動規範は、今後も中国やインドのように急成長を遂げつつある人口大国によって、もっと過激な形で引き継がれている。中国では今や車ブームである。このモータリゼーションがどういう地球をもたらすか、誰でも容易に想像することができるだろう。
1987年の国連後援のブルントラント委員会報告書で用いられて以来、「持続可能な発展」という考えが出てきたが、では実際に何をしたら「持続可能」になるのかの答えが容易には出てこない。96年に書かれ最近日本語訳も出たHerman E. Dalyの「持続可能な発展の経済学」(Beyond Growth―The economics of Sustainable Development)によると、「量的拡大(成長)という経済規範を、質的改善(発展)という経済規範に置き換える」ことが必要になる。
このような発想の転換は「大部分の経済組織や政治組織の抵抗」を受ける。いま日本の政策を決めている集団は、小泉、竹中を含め、その発想からしてまさに「抵抗勢力」である。「持続可能な経済システム」が、未来の人類には福音をもたらすとしても、現在生活している人たちには生活レベルの低下をもたらすのできわめて不人気である。選挙で政権が決まる民主主義国では、「持続可能な経済」を主張する政党は選挙で勝てないだろう。政策の受益世代と、政策の決定世代とが異なっていることがこの問題の難しさである。その点で財政赤字解消問題に性格が似ている。
こうして今のままでは、発想の転換なしにずるずると破滅的状態に人類を導く可能性が高い。金子勝・慶大教授の言葉を借りれば「地球の悲鳴を聞こうとしない者たちは、遠くない未来に人々の悲鳴を聞くことになる」(朝日新聞、05.10.26 夕刊「論壇時評」)。京都議定書から離脱したブッシュ政権が、ニューオーリンズの人たちの悲鳴を聞いたのは、その悲鳴の走りであったろう。 
少なくとも、目下の政治が金科玉条としている「グローバリゼーション」「自由貿易」「メガコンペティション」「資本原理主義」「成長することはよいことだ」などの概念が、「持続可能な経済」と両立しにくいことは間違いない。
人類はいつになったら「地球の悲鳴を聞き、『清貧』に甘んじる政策」を受け入れるようになるだろうか? ヒトはそこまで賢いのかと問われれば、筆者は楽観的にはなれない。
                 (2006.3.4)

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