Archive for 06 September 2005

06 September

「靖国」を何故争点にしないのか

 自民・公明の「郵政こそ争点」という戦略に惑わされて、今回の選挙では「靖国」はほとんど有権者の意識にはのぼっていないようだ。しかしこの問題は、今後の日本の進路を決める上で、決定的な意味を持っている。

 今回東京の全小選挙区立候補者の内、自民党(前自民党を含む)と民主党候補者について、「首相の靖国参拝についてどう考えるか」という質問への回答をまとめてみた。

参拝すべき 自民党 11、民主党 2         
外交などに配慮し柔軟に 自民党 11  民主党 3
参拝すべきではない 自民党  0  民主党 16
無回答・別回答 自民党 4  民主党 3

 両党の違いが実にはっきりと出ている。マスコミ関係者の中でも、自民・民主の違いが見えないと安易にいう人が多く、共産党などは選挙戦術上「全く同じ」と強調しているが、両党の体質の違いは歴然としている。
 
 「靖国問題」を単に外交問題と見たり、戦没者追悼問題、A級戦犯合祀問題と矮小化して考える人が多いが、それが全くの誤りであることは、高橋哲哉氏の「靖国問題」(筑摩新書)に詳細に論じられている。窒素ラヂカル子もこれまでしばしば論じてきた。高橋氏の言を借りれば、靖国神社は戦争をするのに好都合なように、「『お国のために死ぬこと』や『御天子様のために』息子や夫を捧げることを、聖なる行為と信じさせる」ための重要な国家機関であったし、今の靖国神社も全く変わっていないということこそ問題の本質である。そういう思想や国のあり方を是認するかどうかが問われているのである。
 
 先日のNHKの視聴者も参加する大討論会でも、靖国問題を「外交問題である」「国内問題である」と二元論に立った設問をしていた。これは「外交問題」=「靖国参拝反対あるいは慎重に」、「国内問題」=「他国が口を挟むべきでない」=「参拝賛成」と想定した設問であったろう。当然参加者から異論が出たが、この番組を企画し、設問を作り、運営したNHK担当者は、あきれたことに「靖国問題」の本質を全く理解していない(この番組での設問は実におかしなものが多く、見ながら本当に腹が立った)。上の二元論でいうならば、それは外交問題ではなく、すぐれて国内問題である。それはNHKが想定した回答とは逆の意味でである。
 上記自民党候補者のうちの「柔軟派」は、「外交問題」だから柔軟にといっているのだろうから、彼らも全く本質を理解していない、あるいは間違った考えを持っている人達である。柔軟だからいいとは全く言えない。自民党候補者には「参拝すべきでない」という人が一人もいないのだから、自民党は「靖国観」「国家観」において、戦前思想を是認する、あるいは少なくともそれに大きな抵抗感を持たない人の集団であるといってもいいはずである。
 だからこそ、「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします」という村山談話を初めとする日本政府の公式見解が、本音ではないのではないかと疑わせるような発言が、自民党政治家から次々に発せられるのである。その点で民主党候補者の大多数とは全く違うのである。(民主党にも民主党にいるべきでない人がいる)

 これこそがどちらの政党を選ぶかの最大の基準であるといってもいい。郵政民営化、年金、子育てなど、それなりに大問題かも知れないが、「靖国問題」に象徴される「ものの考え方」こそ、すべての政策にからまってくる基本問題なのである。今後予想される憲法改正問題にも当然直結してくる。有権者はどういう「国のあり方」を選ぶのかが問われているのだ。「靖国問題」を争点にせずして、「郵政民営化」などという矮小な争点で投票することは全く間違っている。

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