Archive for 23 June 2005

23 June

花便り(46)シナノキ、ムクロジ そしてナツメ

 夏が近づくころになると、目立つ花を咲かせる樹は限られてくるが、ひっそりと花を咲かせている樹は少なくない。先回紹介したムラサキシキブ類もそうである。今回もその種の花3種を紹介する。

1. シナノキ(シナノキ科シナノキ属) Tilia japonica
 近所の寺にある樹。花の香りがよく、蜂や小さい甲虫が訪れていた。写真のように観音像の側に植えられているので、ボダイジュ(同科同属) Tilia miquelianaまたはオオバボダイジュ Tilia maximowiczianaの積もりで植えられたのかも知れない。しかし次の点でその何れでもない。?多数の雄しべが花弁より長く突き出る。?花柄および葉の裏に星状毛がなく、脈腋にだけ僅かな淡褐色の毛叢がある。
 インターネット上の情報によると、オオバボダイジュとして街路樹にされている樹の大半はシナノキだそうだから、この寺でも間違われた可能性は大いにある。
 花の姿からはセイヨウボダイジュ Tilia europaea(シューベルトの歌曲にあるLindenbaum)の可能性があるが、インターネットで見る限り、この花はもっと黄色味が強いようである。葉に関する情報が得られないので断定はできない。
 ボダイジュが寺院によく植えられるのは、釈迦がその木の下で悟りを開いたと伝えられているためであろうが、その樹はインドボダイジュ(テンジクボダイジュ)(クワ科イチジク属)Ficus religiosaであって、全く違う樹である。この樹はただ一株で小さい森林状に繁茂するという。
 北海道に多いシナノキは、その樹皮から強靱な繊維がとれるので、アイヌ人は古くから利用していたらしい。シナとは縛るとか括るという意味のアイヌ語から来ているとのことである。



2. ムクロジ(ムクロジ科ムクロジ属)Sapindus mukorossi
 上と同じお寺にあって、市の名木百選に選ばれている高木である。何しろ花も高いところにあるので接写もできず、花の状態がどうなっているかよくわからない。下に写真のような直径4〜5mmの小さな花が沢山落ちているので、もう盛りを過ぎているのかも知れない。
 秋には直径2〜3cmの球形の核果が飴色に熟す。果皮はサポニンを含みよく泡立つので、昔は洗濯や洗髪に使われた。そして何よりその堅い核は、羽根つきの玉に使われた。羽子板でつくと、カチンとよい音がした。



3. ナツメ(クロウメモドキ科ナツメ属)Zizyphus jujuba
 ナツメと聞いて、♪庭に一もと棗の樹・・・ という水師営の歌を思い出す人は相当年配であるに違いない。旅順陥落後、乃木大将と敵の将軍ステッセルが歴史的会見を行ったのが丁度百年前のことなのだから。次の歌ならどうだろう。
♪あの子はだあれ 誰でしょうね
 なんなんナツメの花の下
 お人形さんと 遊んでる
 隣のみよちゃんじゃないでしょね

 子供の頃、実際に隣にみよちゃんがいて、よく遊んだことを思い出す。もういいおばあちゃんになっているはずだが、どうしているやら。
 恥ずかしながらこれまで実際にナツメの樹を見たことがなかった。これがナツメとわかったときはとても嬉しかった。3脈が目立つ葉の葉腋に直径5〜6mmの小さな黄緑色の花を1〜3個つける。小枝に付くのでネックレースをぴんと引っ張ったように見える。
 核果は秋に暗紅色に熟す。これは甘く生食したり干したり、砂糖漬けにする。利尿強壮の効果があるという。

18:06:58 | archivelago | | TrackBacks