Complete text -- "闘病記 2 「帯状疱疹後神経麻痺」へのステロイド療法顛末記"

28 January

闘病記 2 「帯状疱疹後神経麻痺」へのステロイド療法顛末記

 2005年12月5日から「帯状疱疹後神経麻痺」の治療のため入院することになった。出ている症状は、11月に帯状疱疹が出た右足全体の痺れ(痺れは下にゆくほど強く、痛みの走る頻度も高い)と、腓骨神経麻痺のため、右足先の持ち上げができないこと、および12月になってから現れた左側の顔面神経麻痺である。
後者の症状は、左瞼が閉じられず、かつ上瞼が垂れてくること、唇の左の閉じ方が不十分で、食べたものが左の歯茎と唇の間に挟まりやすく、ともすると唇の左端から水が漏れやすいというものであった。これによって顔貌が変わった。
これら足と顔の二つの症状が同じ原因によるものかどうかは不明。顔面神経麻痺が起こったことで、中枢異常も考えられたため、脳のCTを撮ったが、それで見る限り中枢には異常はなかった(この点は後にMRIによっても確かめられた)。

ステロイド療法のほかに、ペイン・クリニック科での神経ブロックまたは点滴による痛み軽減と、顔面麻痺治療のためのレーザー温熱療法も並行して行われた。神経ブロックは神経周辺の血流増加作用があるとされる。またリハビリ科では、右足および顔面の低周波電気刺激を実施した。

ステロイド療法を実施するに当たっての問題は、かねて境界領域にあった血糖値とヘモグロビンA1c値(6.7)が糖尿病領域にはいっていることが、帯状疱疹発症後判明したことである。糖尿病患者へのステロイド剤(プレドニン錠)の投与は、禁忌もしくは慎重投与となっている。それは血糖値を悪化させるからである。
そこで治療の基本方針は、ステロイド療法の間の、1400kcalという食事制限とインシュリンの皮下注射による血糖値のコントロールである。そのため血糖値自己測定とインシュリンの自己注射を習った。インシュリンは即効性と遅効性のブレンドされたノボラピッド30ミックス注。12月6日夕方から朝・昼・晩にそれぞれ4・2・2単位を打つ。夕食前血糖値は6日125、7日110、8日155。
9日からプレドニン投与が始まる。朝・昼・晩、5mg錠、各3・2・1錠(計30mg)。
その結果、朝の血糖値が110~112にコントロールされていても、夕食前値が150~235に跳ね上がった。これは明らかに朝・昼25mgという大量投与が、昼間の血糖値を著しく悪化させた結果であろう。この結果を見て、13日から昼の投与量が4単位に変更された。
 しかし14日の夕食前値は235、15日159にもなった。16日以降は朝の血糖値だけを測るようになったので詳細はわからないが、21日に測定したところ211であったので、昼間の血糖値は極めて高いまま推移したものと考えられる。

 自分の体重は174cmの身長に対し、66kg前後と、ほぼ標準体重近く、30年以上維持されていた。それが帯状疱疹の痛みが激しく、吐き気があったりして食事を抜くこともあったので、11月中に63kgまで減少していた。
 しかし1400kcalという強い食事制限のため、入院後体重減少が著しく、一時帰宅した12月31日、60kgを割って59.2kgとなった。1月3日には58.5kgと、正常体重から8kg減ってしまった。腕時計のバンドには、2本指が入るほどになった。尻の肉は落ち、しわが何本もできていて、しゃがむと皮だけが垂れるのは自分でも情けない。これだけ強い食事制限をしながら、病院での体重のモニターが全くされなかったこと、12月12日に最後の診察をした後は、1ヶ月間も内科医に会う機会を作ってくれなかったのは実に問題である。

 今年の病院業務が始まった日、4日に主治医の皮膚科医に、激やせしたことを訴え、1400kcalを治療期間中続けるのかと聞いたら、「そうだ」という返事であった。その点は内科医に任せてあるからとも言った。これはおかしな話で、「集学的治療を受けたらどうか」と勧めたのはこの医師であった。専門の違う医師が知恵を集めて、患者にとって最適な治療法を選択するのでなければ「集学的」などと謳えないだろう。治療中の患者の基礎的体力を維持するのは基本中の基本であるはず。
 このままでは治療どころではないと感じたので、10日朝、皮膚科医に「カロリー制限のことについて、内科の先生とご相談いただけないか」と訴えたが、はかばかしい返事はなかった。仕方がないので、看護師に頼んでどうしても早く内科医に会ってほしいと頼んだら、その日の夕方に会うことができた。
 「体重がこんなに減っては、自然治癒力も大幅に低下しているのではないかと懸念している」、「途中で診察していただいたら、訴える機会があったのですが」と言ったら、医師は「済みませんでした」と何回も謝った。恐らく医師は朝の空腹時血糖値の数字だけをみていたに違いない。最近の医師は、数字と画像だけ見てヒトである患者全体を診ないとよくいわれるが、全くその通りだと思った。医師が謝ることは滅多にないのだろうが、やはり常識的に「これはまずかった」と思ったに違いない。その日の夕食から、1600kcalに増やしてくれた。
 (尤もこの医師を一方的に責められない事情も記しておく。最近の糖尿病患者の増加で、この糖尿病を専門にしているこの医師は、外来診察は午前中となっていても、恐らく昼食も撮らずに夕方まで患者を診ている。朝食前空腹時の血糖値が、まあまあ維持されているのを見て、週1回と建前上は決まっている診察をはしょったのであろう。日本の病院勤務医の過酷な勤務がしばしば問題になっている通り、医療体制の整備が時代の要求にマッチしなくなっている1例かも知れない)
ご飯の量が140gから180gに上がった。しかし健康なときでもこれほどご飯は食べていなかった。糖尿病向きではないメニューである。それまで朝食前の空腹時血糖値は、120台以下にコントロールされていたのだが、カロリーが増えた分を全部食べたら、150台に跳ね上がった。それでその後はご飯を残し、妻に運ばせたタンパク食品や野菜類で補うことにした。いけないことであるが、これは自衛のためである。これで朝食前血糖値はほぼ120台に収まるようになった。
 
 1月5日でプレドニン30mgの投与が4週になったところで減量に入った。6日から2+2+1錠(計25mg)、13日から2+1+1錠(計20mg)、27日から1+1+1(15mg)となった。この減量によって時々少し頭がぼんやりするような感じや、顔の火照り、リハビリでの自転車こぎで脈拍の上昇が速すぎるようなことがあったが、大きな問題は起こらなかった。
 この間17日に退院したが、顔面神経麻痺は12月13日あたりがピークで、15日には左目が閉まるようになった。これにはステロイド、レーザー治療、低周波刺激のどれが効いたのかはわからない。20日には顔のゆがみはほとんど消失。
 一方足の方は、13日まで親指から土踏まずにかけて走るような発作的痛みが昼夜を問わず頻繁に起こって、夜何回も目が覚めた。ペイン・クリニックでは8日から週1回、神経ブロックとレーザー温熱療法が始まった。同時に弱い麻薬で鎮咳剤であるコデイン1%細粒剤と、3環系抗うつ剤であるトリプタノール錠が投与された。最近では鎮痛と痺れ改善のために、こういう使い方はスタンダードになっているらしい。コデインを服用し始めたら予想された副作用である便秘が始まって苦労した。寝る前に緩下剤を飲んでいても、腸管の蠕動が抑制される感じ。19日には浣腸して排便する。
 14日には痛みの回数が減り始め、15日には発作間隔が明らかに短縮した。これは顔面神経麻痺の改善が始まった時期と一致する。しかし右足の痺れはいっこうに改善せず、特に足首から下がひどい。右足先を持ち上げることは今もできない。

 結果として今回の入院加療は、顔面神経麻痺が消失したこと、右足先に走っていた発作的な痛みの強度・頻度・持続時間が、顕著に減少したという効果があった。最も大きな狙いであった右足の腓骨神経麻痺は、今のところ目立った改善がみられていない。
 他方、この間の食事制限で体重が発病前の標準的な66kgから56kgに、10kgも減るという大きな問題を残した。これだけの体重減少は、筋肉蛋白だけでなく、内臓蛋白も、その内臓で働いている酵素蛋白の生合成も抑制し、いわゆる自然治癒力を大きく損なっている可能性がある。
そもそもステロイド療法は、ステロイド自身が病気を治すわけではなく、人間の持つ自然治癒力という基盤の上に、本来人間自身が合成し分泌しているステロイドを外から追加し、回復力を高めてやろうとするものである。従ってその療法においては、患者の体力・自然回復力を維持しながら行うことでなければならないはずである。
この場合、傷められた神経細胞を、新しく再生した細胞に置き換えてゆくという難しい過程をこなさなければならない。それに関与する酵素も他種類にわたるに違いない。それらカスケード的に働く酵素類の一つでも活性が低下していれば、全体の回復が遅れるに違いない。
ステロイドによる血糖値の上昇は顕著で、やはり糖尿病患者でのステロイド療法は難しい。体重を維持するほどのカロリーを取りながら、血糖の上昇を防ぐにはインシュリンの投与量を増やすほかないだろう。繰り返すが、今回の治療には、皮膚科医であった主治医と内科医の緊密な協力が必須であったと思う。それがなかったために、自然治癒力まで損なった可能性がある。
大金をかけ貴重な日時を病院で過ごした患者としては、今回の治療は極めて不満の残るものであった。今は一日も早くステロイドから離脱して、体重回復できるカロリーを摂取することが最重要なことだと考える。血糖値をモニターしながら、必要ならインシュリン、または経口糖尿病薬でのコントロールもやむを得ない。
中枢神経に異常があるわけではなく、再生可能とされる末梢神経の障害であるから、時間をかければ治癒可能と信じたい。気長に望みを持って。
            (2006.1.28)

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