Archive for 13 September 2005

13 September

議席数に示される民意とは(1)

小選挙区制の危険性と非民主性(1)

 今回の総選挙の結果は大方の予想を遙かに超えるものだった。自民党圧勝である。単独過半数をとると意気込んだ民主党は無残な敗北を喫した。何がこれほどの変化を生んだのか、深く考察してみる価値がありそうである。

 先ずその考察には二つの視点が必要だろう。一つは小選挙区制度の下で、民意の変化はそれ程劇的だったかということである。もう一つは変化があったことは確かだが、その変化をもたらしたものが何であったかということである。

 この稿では第一の点を考察してみよう。小選挙区の得票数は自民党364万票、民主党240万票、その比は60:40である。これに対して小選挙区での獲得議席数は81:19である。小選挙区制の特質が実によく表れている。これは死票が多いことを意味する。
 比例区での得票数は、自民党2589万票、民主2104万票、その比はさらに縮まって55:45である。合計獲得議席数は296:113だから、その比は72:28となる。これで民主党の議席数は比例区でかなり救済されたことがわかる。
 これを自民・公明(与党)対その他(野党とは限らないが一応野党とみなす)で見てみよう。小選挙区で与党3350万票、野党3133万票。その比52:48と接近する。比例区では与党3487万票、野党3294万票、比は51:49でその差は僅かである。

 得票数から見る民意の与野党支持比は、ごく僅かしかないのに議席数比は68:32と大差がついている。この数字は極めて重大な数字であって、与党が三分の二以上の議席を占めたことによって、与党はいわば政策上のフリーハンドを得たことになる。参院の勢力図がこのままでも、参院で否決された法案も、衆院へ差し戻して三分の二以上で可決すれば成立する。
 その上、憲法改正の発議が出来ることになった。現在は自民・公明の間で憲法に関する考え方の違いが大きいので、与党案をまとめるのは容易でない。しかし野党民主党の中に、自民党に近い考えの人が相当数いるので、草案を民主党が飲みやすい形にして出せば、その賛成を得ることも可能である。しかも8月に発表された自民党案のように、国会の発議を過半数で出来るようにしておけば、いつでも多数派を占めた会派は自分に都合のよいように憲法再改正、再々改正の発議が出来る。

 それだけでなく、絶対多数を得た与党は、今後3ないし4年間、思うように法案を作って可決することが可能で、委員会審議は可決までの時間稼ぎになってほとんど空洞化するだろう。与野党支持比率はほとんど半々であるのに、全く一方的に政策が進められる恐ろしさは、まだメディアでもほとんど論じられていない。

 小選挙区制の長所・短所は議論し尽くされているように見えるが、その短所の「少数派の意見切り捨て」的性格は、民主制度の根幹を揺るがす特性である。しかも今回の激変は、その議論をも打ち砕く、とんでもない鬼子を生んだことにならないか。支持比率がほぼ1:1なのに、議席比率は与党にフリーハンドを与えるという事態が、国会の審議の中で想定されていたとは思えない。小選挙区制導入時、猛反対した小泉首相が、その制度で大勝したのは皮肉というほかない。

 それではどれくらいの投票行動の変化があったのか。これを前回03年の衆議院選挙と今回の、比例区での大都市部と地方とに分けた得票率の変化を見てみよう(日経9月13日による)。
自民党、大都市部 37.0%から45.1%、地方 46,1%から48.7%へ、それぞれ増やしている。これに対して民主党、大都市部 42.6%から37.5%へ減、地方 34.7%から36.1%へ増。
これからわかるように大都市部での変動が大きい。朝日新聞による解析によっても、自民党の得票率は、東京23区と指定都市、市、町村の3区分いずれも38%である。民主党もそれぞれ30,31,31とほとんど違いがない。
 これまで自民は地方に、民主は都市に強いという傾向が全く消失した点に今回の特徴がある。これは小泉首相が、派閥にとらわれず、族議員の意見を聞かなくなったこと、公共投資が減らされて地域への利益誘導が減ったことに関係しているだろう。そのことはいわゆる落下傘候補が当選または善戦したことにも現れている。この点では小泉首相の「改革」の、一番評価される点だろう。
 上記支持率の変化は大きいといっても僅か5〜8%である。このことは選挙における訴えによって、僅か3〜4%の人を、A党支持からB党支持に変えるだけでよいことを意味する。これは重大な点である。日本国民が雪崩を打って小泉支持に変わったという理解は全く間違っていることになる。

 この稿では二つのことを明らかにした。一つは小泉支持の民意は投票した人の約半分、投票率を考えれば全国民の3人に1人であるにもかかわらず、議席数は与党に絶対権限を与えてしまったこと、僅か3〜4%の人の心を変えるだけで、議席数の激変を生じうるということである。
 それでは今回の議席状の激変をもたらした有権者の投票行動の変化が、何によってもたらされたのかの解析も重要である。それは明日の記事で行うことにしよう。

15:08:30 | archivelago | | TrackBacks