Archive for 18 December 2005

18 December

立川ビラまき裁判に思う ―高裁判事の頭を疑う―

 12月9日東京高裁は、立川市防衛庁宿舎で、自衛隊のイラク派遣に反対するビラをまいて住居侵入罪に問われた市民団体3人に、逆転有罪の判決を下した。

この件については、「窒素ラヂカルの正論・暴論」における、今年1月、「検察の公平・公正さを疑う ―法の下での平等は踏みにじられている―」という文章でこの問題を取り上げた。当時は無罪となった1審が終わったところで、司法の良識が生きていたと感じたものである。その東京地裁・八王子支部は、「3人のビラ配布は憲法が保障する政治的表現活動の一つ。民主主義社会の根幹をなすものとして、商業ビラより優越的な地位が認められている」とし、「住居侵入罪の構成要件には該当するが、刑事罰を科すほどの違法性はない」と判断した。
 これに対して東京高裁は、「ビラによる政治的意見の表明が保障されるとしても、宿舎管理者の意思に反して立ち入ってよいことにはならない」として、一審判決を破棄、全員有罪とした。関係者以外立ち入り禁止とする表示がなされていたことや、住民が一度抗議をしていることを重視したという。
 いわゆる可罰的違法性(罰するほどの違法性)があったかどうかについて、判決は次のようにいう。「被告等の立ち入り行為の目的や態様、これに対して居住者等が取った対応や受けた不快感のほか、テント村関係者によるビラ投函のための立ち入りが反復して行われていて管理権者が措置を執っていたことなどに照らすと、被告等の行為によって生じた管理権者等の法益侵害の程度が極めて軽微なものだったということは出来ない」「したがって、住居侵入罪の構成要件に該当する被告等の立ち入り行為が、可罰的違法性を備えていないとの理由により違法性が阻却されるとはいえない」

 これは驚くべき判断といわざるを得ない。なぜなら、事は「民主主義における言論の自由」の重要性と、「自分の意見に合わない内容のビラをまかれるごく少数の住民の迷惑」とを天秤にかける判断において、後者が大切だといっていることになるからである。

 ビラの内容は、自衛隊のイラク派遣に反対するものであった。防衛庁宿舎の住人にしてみれば、確かに迷惑な話であろう。しかしイラク派遣反対は当時国民の多数派であった。しかもブッシュ政権が主張していた「機密情報の大半が、結果的に間違っていた」とブッシュ大統領自身が認めざるを得ないほど、現実のイラク戦争は大義に欠けたものだった。その不当な他国への侵略戦争をいち早く無条件に支持して、小泉首相は憲法解釈を曲げてまでイラク派遣を決めたものだった。このように重大な政府の誤りを指摘するビラは、民主政治の誤りを少しでも減らすために、絶対に必要な言論であったはずである。それは自衛隊員にとっても、自分の命に絡む重要な情報である。

 しかも「検察の公平・公正さを疑う」の文章で指摘したように、反政府的意見の表明が、捜査当局による恣意的な摘発によって脅かされる事例が続発しているのである。捜査当局の動きだけでなく、政府・与党が提出する法案の多くに、「言論の自由」を制限する意図が感じられるものが実に多い。(9月にアップした「国民投票法与党案のおぞましさ ―投票に当たって国民は情報を得られない?―」参照) 明らかに時代は「言論の自由」を制限する方向に走り出しているのである。

 そんなときに司法までが、言論の自由にとどめを刺すような判決を出すのでは、民主主義は死んでしまう。「言論の自由」と「住民の迷惑」との比較考量という、至極簡明な問題についての判断も出来ない人物が、高裁判事であることに驚かざるを得ない。彼らの頭はどうなっているのか。
 被告等は直ちに最高裁に上告したが、最高裁がどんな判断を下すか大いに注目しておく必要がある。

                 (05.12.18)

14:33:00 | archivelago | | TrackBacks