Archive for 12 July 2005
12 July
情報源秘匿で記者を収監する「自由の国」アメリカ
米ホワイトハウス高官がCIA情報員の名前をメディアに漏らしたとされる疑惑報道に絡んで、NYタイムズ紙のジュディス・ミラー記者が「法廷侮辱罪」で収監された。この疑惑はブッシュ政権の意図に反して、イラクのウラン購入疑惑を否定した米国のウィルソン元駐ガボン大使を陥れるために、その妻プレイム氏がCIAの情報員であることを、米高官がメディアにリークしたというものである。情報員の身元公開は犯罪になる可能性があるため、特別検察官が高官の特定を進めている。
ミラー記者は政府高官の氏名を取材したものの、記事にはしなかった。彼女は「もしも情報源の秘匿について信頼されなければ、記者の仕事は果たせないし、報道の自由もあり得ない」として、あくまでも大陪審での証言を拒否した。一方、同じく証言を求められていたタイム誌のマシュー・クーパー記者は、大陪審で政府高官の氏名を証言するとしたため、収監を免れた。二つのメディアの対応は全く正反対になった。
ジャーナリズムの倫理と報道の自由を優先させたNYタイムズ紙とミラー記者に強い支持を表明したい。報道の自由は権力の腐敗、不正を防ぐ意味で、民主主義にとっては死活的な重要性を持っている。米国でも州法では記者の取材源の秘匿を認めるところもあるらしいが、連邦レベルではその法制度がない。法廷で証言しないということで、記者が「法廷侮辱罪」で収監されるのでは、報道の自由は保てない。
その恐れは早くも現実のものになった。オハイオ州最大の日刊紙、ザ・プレーン・ディーラーが、「2本の重要な調査報道記事が私たちの手の中でしおれようとしている」と発表した。「一般読者のためになる記事だが、両方ともリークされた書類によるものであり、漏らした人物は深刻な問題に直面することになる(ので掲載できない)」と明らかにした(朝日、05.7.12夕刊)。
こういう風にメディアが自主規制をするようになったら、かつてのベトナム戦争に関する国防総省の秘密報告書報道、ウォータゲート事件の暴露などの報道の金字塔は生まれてこないだろう。最近の米国は、「テロとの戦い」の名のもとに、果たしてこれが自由と民主主義の国かと思われるような変化を遂げているように見えるが、証言を拒否しただけで記者が収監されるという馬鹿げた事例が増えてくれば、報道の自由も風前の灯火である。「寒気を催す決定で、悪事のもみ消しにつながるだけ」というNYタイムズ紙の編集長の嘆きが広まることになろう。
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