Complete text -- "花便り(104)咲き分けの不思議"

01 October

花便り(104)咲き分けの不思議

 きれいな花の咲く木本あるいは草本の中には、一つの株でありながら色違いの花を咲かせる植物が少なくない。また本来の色と別の色が混じって、「斑入り」になったものも多い。実に不思議な感じを与える現象である。これは花の色素合成系遺伝子に変異が起こったものと思われる。園芸的にはそれを積極的に利用して、新しい園芸種を作出するのに利用することもある。ここでは咲き分けの例をいくつか紹介する。ここに挙げた植物だけでなく、ボケ、アサガオ、キンギョソウ、サツキなど、多くの例が知られている。

1. モモ(バラ科サクラ属) Prunus persica cv. Genpeishidare
 神戸大学農学部附属食資源センター片山研究室ではハナモモ花色発現機構の研究が行われている。
 http://www2.kobe-u.ac.jp/~hkata/kenkyunaiyo%20PEACE.htm
 ハナモモのピンク色はアントシアニン色素によるが、この色素は多段階の反応によって生合成される。それぞれの反応は反応特有の酵素によって触媒される。その酵素はその植物特有の遺伝子DNAの情報に従って作られる。ところがその遺伝子DNAに一カ所でも突然変異が起こって、ある酵素の活性が失われるとその色素が合成できなくなる。これがピンクであった花を白くしてしまう。この様な変異がある枝に起こると、一本の木にピンクと白の花が咲く源平咲きとなる。
 片山研究室の研究によると、動き回る遺伝子(トランスポゾン)によって色素合成系遺伝子に変異が起こるという。トランスポゾンは、1983年、その研究でノーベル医学生理学賞を受賞した女性遺伝学者Barbara McClintockによって発見された。しかしその彼女の1951年に発表された論文は、珍説扱いで30年も埋もれたままであった。今ではトランスポゾンを積極的に利用して、新品種の開発が試みられている。
 示した写真の撮影は04.4.2。


2. オシロイバナ(オシロイバナ科オシロイバナ属) Mirabilis jalapa
 オシロイバナの花弁と見えるものは実は萼である。この花には咲き分け、染め分け、絞りが実に多い。色違いは、色素合成過程のどこかの変異によって、構造の異なる色素を生成することによって起こっているのであろう。たとえば色素分子のメチル化とか、水酸化が阻害されて化学構造が変化すると、可視光領域の吸収スペクトルは変化する。
 ただ一つの花の中での染め分けや絞りとなると、花の構造体の発生過程で、細胞レベルでその違いが発生していることになる。そのメカニズムがどの程度解明されているか、寡聞にして知らない。わかっていたら教えて下さい。
 04.7.8および05.8.7撮影。



3. ツバキ(ツバキ科ツバキ属) Camelia
 ツバキも咲き分け、染め分け、絞りの多い樹種である。ここには咲き分けの例と、形を支配する因子の変異と思われる例を挙げる。後者の木にはこのように花と蘂の形の異なる二つの花がペアになって数多く咲いていた。05.4.15および05.3.15撮影。



4. サルビア・ミクロフィラ(チェリーセージ)(シソ科サルビア属)Salvia microphylla
 最近みつけた面白い咲き分けの例である。実に美しいだけでなく、その変異と発現のメカニズムを知りたい欲望に駆られる。05.9.27撮影。

11:50:57 | archivelago | | TrackBacks
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