Complete text -- "まるでヤクザの立ち退き料8700億円"

24 March

まるでヤクザの立ち退き料8700億円

―国会議論もなく米戦略に組み敷かれ―

 窒素ラヂカル子は、一昨年の秋から「米世界戦略に組み込まれる日本 ―米提案を拒否して独立を守れ―」「国会形骸化の向こうに見えるもの ―国民はどこへ連れて行かれるのか―」および「国民の知らない間に進む日米軍事一体化 ―テレビが若貴スキャンダルを垂れ流す間に―」で、米軍再編に絡む問題での、小泉内閣の徹底した国会回避の姿勢を批判してきた。これから少なくとも数十年は日本を制約するであろう米国の戦略再編への組み込みについて、ただの一回も国会での議論をしなかった。当時の町村外相も、「まだ話し合いの途中だから」と逃げ回った。
 そして昨年10月29日、外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(いわゆる2プラス2)で、在日米軍再編に関する「中間報告」が発表された。これはさらに今月中に最終報告として決着することになっている。しかしその中に盛り込まれた計画は、関係する地元に相談なしに決められたものなので、公表後ほとんどの地元自治体は反対の声を上げている。政府は誠心誠意説明して地元の了解を取り付けたいと言うだけで、成算があるわけではない。

 中でもほとんどの国民を驚かせたのは、沖縄に駐留する海兵隊15000人のうち、8000人をグアムに移す費用は100億ドル(1兆1600億円)で、その75%(8700億円)を日本が負担せよという要求である。そもそも海兵隊は日本の防衛力として予定されておらず、いわば日本は駐留場所を提供しているだけである。極東条項を形骸化させて、沖縄基地から海兵隊をアフガンやイラクへ派遣する。それを米国の再編策としてグアムに移転するのであって、日本としては「そちらの勝手でしょう」といえる話である。
 それを沖縄の基地縮小の強い要求があることを奇禍として、日本の都合で移るのだから移転費用を負担せよと言うのである。しかもあまりにも法外な金額である。これまでも「思いやり予算」という世界的にも例のない駐留経費、年間2300億円を負担してきた。日本は要求すれば金を出すと見くびられる原因にもなっている。本当に馬鹿にするのもいい加減にしてくれといいたい。
 沖縄返還時に、当然米国が負担すべき経費を、日本が肩代わりした密約が当時の外交当局者によって明らかにされた。政府は今でもそんな密約はなかったと言い張っている。こんな嘘を政府がつき続けるのは政府の信頼性を著しく傷つける。今回もそういう密約を結ぶ気か。
 ローレス国防副次官は朝日新聞との会見で「グアムには、海兵隊だけでなく、空軍、海軍も合わせた主要な拠点を作ろうとしている」と述べている。すなわち米国の戦略上の必要から海兵隊の移転も考えているということだ。また「関連するインフラ整備を合わせて約100億ドルと推計している。米国はこれを大きく上回る全体の再展開費用を負担するのだから、日本に海兵隊移転に必要な経費の約75%の負担を求めるのは、きわめて妥当なことだ」とも述べた。
 米国の主張の根底には、日本の防衛費がGDPの1%しかなく、米国3%以上、韓国2.5%、中国4%以上、シンガポール5%以上と比較して少なすぎるという考えがある。しかし防衛費にその国がどれだけ支出するかは、その国の国民が決めることであって、他国から多いの少ないのと文句をつけられる話ではない。支出が多ければ他国にとって脅威にもなろうが、少ないのは日本が専守防衛という、世界に誇るべき方針を採ってきたからに他ならない。

思いやり予算はまだ日本国内の基地に関するものであったが、今回は米領土であるグアムにつくる新たな基地施設などに使われるものである。外国に作る施設に日本の税金を使うなどということは、法律も想定していないことである。政府は新しい法律を作ることを考えているそうであるが、貸付金として出す案もあると報じられた。しかしそれには何年か後には債権放棄でうやむやという危険もある。

 いまや米国の世界的な軍事戦略に諸手を挙げて賛成という国はほとんどないだろう。突出した軍事支出が、産軍政のコングロマリットの利益のためだということを知らぬ人はいない。アイゼンハウアー元大統領が懸念し警告した通りになってしまった。国連の了解もなしに始めたイラク戦争は、事実上の内戦状態に突入し、収拾のめども立たない。今の小泉内閣の無戦略では、そんな誤った米戦略に巻き込まれて日本も抜き差しならぬ立場に陥るだけだろう。戦略がないから国会での議論にしたくないのである。
 今回の交渉経過を見る限り、日本は米国の属国としか思えない。占領時代の統治・被統治の関係がいまだに続いていると見られる。この関係は自民党政治が続く限り変わらないだろう。もっともいまの前原民主党でも変化の期待は持てない。対米関係、対アジア関係を根本的に見直し、大きな戦略の下で外交を展開するスケールの大きい政治家は出ないものか。

              (2006.3.24)

21:44:05 | archivelago | | TrackBacks
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